第1部 (4) ロークとキーティング

さて、今、ピーター・キーティングは今夜どうやって母親から逃げ出そうかと考えながら、柔らかな夜の暗がりの中を家路に急いでいるところだ。

おふくろは僕のために随分と頑張ってきてくれた。おふくろががひんぱんに言うように、彼女はきちんとした生まれ育ちで、女学校もちゃんと出ている。なのに、おふくろは懸命に働いてきた。家に下宿人まで置いてきた。これは、おふくろが属する階級の人間がすることではなかったのに。

キーティングの父親はスタントン市で文房具専門店を所有していた。店は、時代の移り変わりについてゆけずに、たたまざるをえなかった。父親のピーター・キーティング・シニアは、ヘルニアのために12年前に逝ってしまっていた。

夫の死後、妻のルイザ・キーティング、つまりピーターの母には、スタントンの町でも結構な階層の人々が住む通りの端にある住居が残された。保険からの確実に金額が保証された年間配当金もあった。彼女はちゃんと将来のことを考えて準備していたのだ。それと、ひとり息子が残された。

とはいえ配当金は慎ましい額だった。下宿屋を営んで得る収入と、心に深く決めた目標のために、彼女は何とかやってこれた。

毎年の夏には、息子がアルバイトでホテルの従業員をしたり、形のいい頭を活用して帽子屋の広告のモデルになったりして稼ぎ、母親を助けた。息子は必ず世の中で彼にふさわしい地位を築き上げるものと、彼女は信じて疑わなかった。だから、吸血鬼のように優しく、かつ容赦なく、彼女は息子を管理してきた。

おかしなもんだ、とキーティングは思い出す。自分が一度は画家になりたいと思ったことがあるとは。彼の絵を描く才能をどの分野に行使すべきかを選んだのは、母親だった。

母親は言った。「建築家はちゃんとした職業だわ。それに、一番立派な方々と接するわけだし」と。

母親が彼をこの職業に押し込んだ。彼自身はいつどうやってここまで来たのかわからなかった。おかしなもんだ、とキーティングは、また思う。もう何年もの間、画家になりたいという昔の思いなど忘れていたのに、なぜ今頃になって思い出すのか。思い出してみると、そのことが心を疼(うず)かせる。

建築家はいつの世も輝かしい職業だったと、キーティングは思う。一度トップに上り詰めて、落ちた人間なんて今までいたろうか?

突然、ヘンリー・キャメロンのことを彼は思い出す。20年前は高層建築の建築家だったけれども、今じゃマンハッタンでも柄の悪い波止場地区に事務所を構えるしかない飲んだくれだ。キーティングは身震いする。もっと足早に歩を進める。

歩きながら、キーティングは誰かが自分を見ているのではないかと気になる。通りすがりの家々の灯りのともった窓が闇の中で浮かび上がっている。彼はそれを凝視する。カーテンが揺れて、住人の頭が窓から乗り出されたりする。僕が通るのを見るために、その住人が窓から身を乗り出したのだろうか?今はそうでなくても、いつかそうなるぞ。みんなが僕のことを見ようとするぞ。

キーティングは自宅に近づいて、立ち止まる。自宅の玄関ポーチの暗闇に、とんでもないぐらい鮮やかなオレンジ色をした髪が見えたから。この髪の持ち主こそ、今夜キーティングが会いたい人間だ。

ハワード・ロークがひとりでいるのを見て彼は嬉しい。そして少し怖い。 ロークは玄関ポーチの階段に腰掛けている。階段に背をもたれさせて、両ひじをつっかえ棒にして身を支え、長い脚を長々と伸ばしている。

「卒業おめでとう、ピーター」とロークは言う。

「うん、ありがとう・・・」

キーティングは、今日彼が受けたどんな追従(ついしょう)や世辞よりも、大きな歓びを感じる。そんな自分に気がついて、キーティングは驚く。ロークが自分の卒業を祝ってくれたことに、彼はおずおずと嬉しさを感じる。それから、自分の気後れを内心では腹立たしく思う。

「今日が卒業式だって、知っていたんだな。おふくろが、君に言ったのかい?」

「うん」

「言わなくてもいいのに!」

「なんで?」

「だって、ハワード。僕がすごく残念に思っていること、わかっているだろう、だって君は…」

「いいんだよ、もう」とロークは言う。

「ハワード、君に話したいことがある。君の助言が欲しいんだ。座ってもいいかい?」

「何だい?」

キーティングは、ロークの隣に腰をおろす。ロークの前で、キーティングが演じられる役はない。そのうえ、今は演じたい気分でもない。一枚の葉が地面にはらりと落ちるのが聞こえる。それは、ガラスのように繊細な春の音である。

その瞬間、キーティングは自分がロークに愛情を感じていることを意識する。痛みと驚きと、自分でもどうしようもない切実さの交じり合った愛情を。

「君は思っていないよな。僕自身の仕事について君に尋ねるなんて無神経だって、そのちょうど君がその…」

「そんなこといいって言ったぜ、僕は。いったい何だよ」

「あのさ」とキーティングは、珍しく自分自身に正直に言う。

「君には変なところがあるとは思ってきたさ、僕だって。だけど、君があのこと、建築については、よくわかっているということも、僕は承知している。つまり、あの馬鹿な教授連中では金輪際わからないことだけどね。あの連中がおよびもつかないほど、君は建築を愛していることも知っている」

「で?」

「ハワード、僕はこんなこと今まで言ったことがないけれど、僕は学部長よりも君の意見が聞きたい。多分、学部長の言うとおりにするんだろうさ、僕は。しかし僕にとっては君の意見の方がもっと大事だ。何でこんなこと言っているのかな、僕は。我ながらわけがわからない」

ロークは、キーティングの座っている方にからだを向ける。キーティングの顔を見上げる。そして笑う。それは若い優しい友好的な笑いだ。ロークからそんな笑い声を聞くのはめったにない。だから、キーティングはまるで誰かが自分を安心させてくれるために手をとってくれたかのように感じる。だから、ボストンで彼を待つパーティのことなど忘れてしまっている。

「まさか僕のことが怖いわけでもあるまいし。いったい君は、何を聞きたいんだ?」と、ロークは言う。

「奨学金のことだよ、僕がもらったパリ賞の」

「うん、で?」

「4年間分の奨学金だ。ガイ・フランコンが彼の事務所に来ないかと言ってくれた。で、僕はどちらを採るべきか迷っている」

「もし君が僕の助言が欲しいというのならばさ、ピーター。それだけで、もう君は間違っている。僕に訊(たず)ねることからして、間違っている。他人に訊(き)くなよ。自分の仕事のことだろう。自分が何を望んでいるか自分でわからないのか?」

「ハワード、僕が君に感心するのはそこだよ。君はいつでも自分のしたいことがわかっている」

「世辞はいいよ」

「だって、ほんとに僕はそう思うんだ。君は、どうやっていつも自分で決断ができるのかな」

「君は、どうやって君自身のことを他人に決断させることができるの?」

「だってさ、ハワード、その、僕は確信が持てないからさ。僕は自分自身に確信を持ったことがない。他人が僕について、あれこれ言ってくれるほど、僕がいいものかどうか、僕にはわからない。こんなこと、君以外の誰にも言わない。君がいつもそんなにも確信的だから、僕は…」

「ピーターちゃん!」キーティング夫人の声がふたりの背後で炸裂(さくれつ)する。

「ピーターちゃん、やだわ、あなたたち何やっているの、そんなところで」

キーティングの母親が玄関に立っている。一番の晴れ着のバーガンディ・タフタを着て、嬉しそうに、かつ怒りながら。

「私は家でずっとひとりであなたを待っていたのよ!まったく、あなたときたら、そんな汚い階段の上で、晴れ着のまま、何やっているの。すぐに立ちなさい。家の中にお入りなさい、ふたりとも。熱いココアとクッキーを用意してあるわ」

「母さん、僕はハワードと大切な話があるんだ」とキーティングは言うが、それでも母親に命じられたとおり、立ちあがる。

母親の方は息子の弁明が聞こえないふりをして、さっさと家の中に戻る。キーティングも後に続く。ロークは、ふたりの後ろ姿を見て、肩をすくめる。自分も家の中に入る。キーティング夫人は、肘掛(ひじかけ)椅子に腰をおろす。

「さてさて、それで、あなたがたは、外で何を議論していたというの?」と、夫人は質問する。キーティングは灰皿を指でいじくり、マッチ箱を取り上げ、またそれを灰皿の上に置く。それから母親を無視して、ロークに顔を向ける。

「なあ、ローク、すかしてないでさあ、意見を聞かせてよ。奨学金を捨てて、すぐに仕事始めるべきか、それともパリ仕込みの芸術でもひっつかんでくるべきか、君はどう思う?」

キーティングの中から、さっき外で話していたときにはあった正直さが消えている。

「あら、ピーターちゃん、これだけははっきり言わせて・・・」と夫人が口を挟む。

「ちょっと待ってよ、母さん!ハワード、僕は慎重にどっちにするか考えなくちゃならない。そんな奨学金をもらえるのは誰でもできることじゃない。ボザールに通えるんだから。それがどれほど重要なことか君にはわかるだろ」

「わからないね」とロークは答える。

「君が変わった考え方するってことは僕も知っている。けれども、僕は実際的な話をしているんだ」

「君は僕の助言など必要ない」とロークは言う。

「もちろん必要だよ!僕は君の意見を訊いているんだ!」

キーティングというのは、第三者がいるときと、ロークとふたりのときとでは、同じ態度を決して取ることができない。玄関ポーチで話していた時から何かが消えている。キーティングはそのことに気がついていなかったが、何かを感じてはいた。ロークが何かに気がついているということは感じていた。今のロークの目はキーティングを不快にさせる。キーティングの神経にさわる。

「僕は建築を実際にやってみたい。建築についておしゃべりするんじゃなくてさ。由緒正しきボザールが大きな特典をくれるっていうんだ。そこいらにいる連中なんか歯牙(しが)にもかけない立場だぜ。ところが、かたやフランコンが腕を広げて来いと言ってくれている。ガイ・フランコンじきじきに、僕にそう言ったんだぜ!」

ロークは、キーティングの態度の豹変を正視できず、顔を背(そむ)ける。

「そんなことにふさわしい人間が何人いる?」とキーティングは、自分の態度の変化には何も気づかずに、しゃべり続ける。

「今から1年もすればさ、ほかの連中だって就職先が見つかる。そうなれば、たとえばスミスとかジョンーズとかの設計事務所に勤めているとか何とか自慢するんだろうさ。そのころ僕は、今をときめくフランコン&ハイヤー設計事務所で働いているともなればさ!」

「そのとおりよ、ピーター」とキーティング夫人は立ち上がりながら言う。

「そういった問題ならば、母親なんかに相談したくはないわね。重要すぎますもの。 ロークさんとふたりきりにしてあげるわ」

キーティングは母親を見上げる。母親がこのことについてどう考えているか聞きたくはない。彼が決断できる唯一の機会は、自分が母親の意見を聞く前に決定することだとわかっている。

母親は、息子を見つめながら立っている。今にもからだの向きを変えて部屋を出て行こうとするかのように。それが決してポーズでないことは息子にはわかっている。もし彼が望むのならば、母親は部屋を出て行くだろう。彼は母親にそうしてもらいたい。ほんとに心からそうしてもらいたい。にも関わらず、彼はこう言っていた。

「なんで、母さん、どうしてそんなこと言えるの?もちろん、母さんの意見は聞きたいよ。どう思う、母さんは?」

母親は息子の声にこもる苛立ちを無視する。微笑む。

「ピーターちゃん、私は何も思ってないわ。あなた次第よ。いつだってあなた次第だったでしょう」

息子の方は躊躇(ためら)いながら、母親の顔を見つめながら、話し始める。

「もし、僕がボザールに行ったら・・・」

「結構ね。パリのボザールに行きなさい。素晴らしいところね。家からまるまる大西洋を越えたところね。もしパリにあなたが行くなら、フランコンさんは、誰かほかの人を採用するでしょう。噂になるわね、きっと。フランコンさんが毎年スタントンの卒業生から一番優秀な人を採用するのは、みんなが知っていることですもの。もし誰か他の卒業生がフランコンさんのところに入ったら、どう見えるかしらね。だけど、そんなことどうでもいいことよね」

「なんて噂になるかな」

「ほかの誰かが実は卒業生の中で一番だったって噂するかしらね。そうね、フランコンさんはシュリンカーを採るでしょう」

「そんな!シュリンカーなんか!」とキーティングは怒って言葉に詰まる。

「それはそうよ、シュリンカーに決まりだわ」と、母親は優しく言う。

「ピーターちゃん、どうして人様がいうことをあなたは気にするの。あなたがすべきことは、自分がしたいようにすることでしょう」

「母さん、ほんとに思うの、フランコンがシュリンカーを採用するって」

「どうして私がフランコンさんのこと考えなければならないの。どうでもいいことだわ、私には」

「母さん、母さんは僕にフランコンのところに就職してもらいたい?」

「ピーターちゃん、決めるのはあなたよ」

キーティングは、自分がこの母親をほんとうに好きなのかどうかわからない。しかし、彼女は彼の母親である。この事実は、彼が母親を愛しているということを自動的に意味しているはずだ。だから、キーティングも自分が母親に感じるものが何にせよ、それは愛だと当然のごとく考えていた。しかし、自分が母親の判断を尊重すべき理由がほんとうにあるのか、彼にはわからない。

「そう、もちろん、母さん…うん、わかってる、だけど…ハワード、ねえ?」

それは助けを求める声だ。ロークは、さっきからちゃんとそこにいる。部屋の隅に置いてある寝台にもなるソファの上で半ば寝転がっている。子猫のように四肢を伸ばしている。

ロークは音を立てずに弛緩(しかん)せずに、自分の行動をちゃんと把握している風情で、猫のような無駄のない正確さで動く。そのことには、たびたび、キーティングは驚かされてきた。まるで、ロークの身体には固い骨など一本もないかのようだった。

寝転がってるロークが、キーティングをチラリと見上げて言った。

「ピーター、自分でもわかっているだろう?ましな方を選べよ。パリのボザールで何を学ぶんだ?ルネサンス式の宮殿にオペレッタの舞台みたいなものしか設計できない。そんなものは、君が心に抱いているだろうあらゆるものを潰してしまう。君はいい仕事をするよ、たまにはさ。誰かがそうさせてくれるならば。ほんとうに勉強したいならば、実地の仕事をしないと。フランコンはろくでもないし馬鹿だけど、君は建築の仕事はできる。ボザールに行くよりもずっと仕事が早くできるようになる」

「ロークさんも、時々は、まともなことを言うわね。トラックの運転手みたいな物言いだけど」とキーティング夫人が言う。

「僕がいい仕事ができると、君はほんとにそう思う?」キーティングはロークを見る。

 キーティングの目はまるで、ロークの「君はいい仕事をするよ」という一文にすがりつくようだった。今のキーティングにとっては、ロークのその言葉以外は、どうでもいい。。

「時々はね。ひんぱんというわけではないだろうけれど」とロークは答える。

「さて、これで一件落着ね」と、キーティング夫人が話しはじめる、

「僕は考えなくちゃ、母さん」

「もう、一件落着したのよ。ココアなんかどう?すぐ持ってくるわね!」

キーティング夫人は息子に微笑みかける。夫人は急いで部屋から出ていく。

キーティングは苛々と大またで部屋を歩き回り、立ち止まり、タバコに火をつける。立ったまま煙を短く吐き出す。

「ハワード、君はこれからどうする?」

「僕?」

「僕には考えが足りないってことは我ながらわかっている。僕自身のことなのに、こんなに迷って。おふくろには、ありがたいとほんとに思っているのだけど、でも僕は苛々させられる。まあ、そんなことどうでもいいけどさ。君はこれからどうする?」

「僕はニューヨークに行く」

「いいねえ。職探しか?」

「職探しさ」

「ひょっとして、建築関係か?」

「建築関係」

「そりゃいいねえ。嬉しいよ。何かあてでもある?」

「ヘンリー・キャメロンのところで働くつもりだ」

「え??まさか、ハワード!」

ロークはゆっくり微笑む。彼の口角が大きく上がっている。でも何も言わない。

「まさか、ハワード、それはないよ」

「そうするつもりだよ」

「キャメロンなんて、しょうもないだろ。昔は、有名だったってことは僕も知っている。だけど、もう終った建築家だ。最近は重要な仕事もしてない。もう何年もそうじゃないか。事務所を構えておくためにだけ、どうでもいい仕事ばかりこなしているそうだよ。彼のところで働いて、この先どうなるっていうんだい。何を学べるんだい?」

「たくさんは学べないけれど、建築物の建て方だけは学べる」

「頼むよ、そんなことするなよ。わざわざ自分を駄目にするなんて。君は今日ぐらいは、なにがしか学んだはずだと、僕は思ってたのに。なのに!」

「学んだよ」

「ねえ、ハワード、君がそんなことするつもりなのは、やけになっているからか。もう誰も君のことを雇わないと、もう他に手がないのだと思ったからか。ちゃんとさ、僕が君を助ける。フランコンのところで働いていれば、僕にもコネができるだろうし」

「ありがとう、ピーター。でもその必要はない。もう決めた」

「彼は、どう言っている?」

「彼って?」

「キャメロンだよ」

「まだ会ってないよ」

その時、家の外で自動車のクラクションが鳴った。キーティングは、今夜のボストン行きのことを思い出して着替えるために部屋を出ようとする。ドアのところで母親とぶつかる。母親が掲げていた盆に乗っていたカップが倒れる。

「ごめん、母さん!」キーティングは母親の両肘をつかむ。

「急いでいるんだ、母さん。男ばかりでパーティがあるんだ。何も言わないでよ。遅くならないようにするからさ、ね!僕がフランコン&ハイヤー設計事務所に行くお祝いだよ!」

キーティングは母親に衝動的にキスをする。あふれんばかりの陽気さである。彼に抵抗することなどとうていできないと人に思わせるような、そんな天真爛漫(てんしんらんまん)さである。

彼は一目散(いちもくさん)に母親から逃げる。着替えるために2階に駆け上がって行く。キーティング夫人はめんくらって、頭を振る。息子を叱りながらも、嬉しそうである。

自室で衣服を脱ぎ捨てながら、キーティングはニューヨークに電報を送ろうと唐突に思いつく。彼は紙切れに書きなぐる。

「キャティへ。ニューヨークに行く。フランコンで仕事。愛をこめて、ピーターより」

キャティとは、キーティングの女ともだちのことだ。いや、恋人か。

今、キーティングはボストンに向かう自動車に乗っている。ふたりの青年の間にはさまれながら。風と道路がうなりながら彼のそばを通過して行く。

キーティングは思う。世界は僕に開かれている。暗闇が車の踊るヘッドライトの前にどんどん消え失せるように、世界が僕の前で開かれてゆく。

僕は自由だ。用意万端だ。数年もしないうちに、僕の名前はトランペットのように鳴り響くぞ。世間の連中はびっくりして眠りからたたき起こされる。僕は、でっかい事をする用意ができている。とてつもないことをするぞ。もう誰にも超えられないようなことをするぞ。そう…建築の世界で。

(訳者コメント)

キーティングとロークの関係は、サリエリとモーツアルトだ。

サリエリは天才ではなかったけれども、優秀な音楽家だったので、酒飲みの女好きのモーツアルトの非凡さがわかった。だから、モーツアルトを追い詰めた。

ほんとうに凡庸なら、モーツアルトの凄さはわからない。凡人は、世間的評判で評価するから。

キーティングも、虚栄心と名誉欲だけある凡庸な優等生じゃない。だから、ロークの非凡さがわかり、彼につい相談する。

キーティングのロークへの愛憎半ばする感情は、同性愛的ですらある。

この後、キーティングは仕事で困ることがあると、何度でもロークに相談する。

なのに、ロークを憎み裏切り続ける。

もう、これは愛の裏返しとしか言えない。

この小説には、ロークに(自分では意識せずに)恋する男たちがいっぱい登場する。

その意味で、『水源』は、一種のゲイのラヴ・ストーリーだ。

面白いのは、キーティングの母親。アイン・ランドは、うざい母親を描かせると、実に上手い。

人並み以上に頭のいい、気丈な女性なのだが、その頭の良さは、小賢しさや小利口レヴェルにとどまっている。

そういう人間の描写が、アイン・ランドは実に上手い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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