エルスワース・トゥーイーは、ホップトン・ストッダードについて考えをめぐらしている。
ホップトン・ストッダードは、2000万ドルの値打ちのある男である。2000万ドルとは、彼が遺産として受け取った三つの財産の総計である。彼の72年間の人生は、もっぱらその金を使うことに費やされてきた。
ホップトン・ストッダードは何にでも投資する。売春宿やブロードウエイの大仕掛けの見世物にも投資するし、宗教的な質のあるものも好みの投資先である。各種の工場に、抵当物件の農場に、避妊具にも投資する。
彼は小柄で猫背である。ホップトン・ストッダードにはひとつの表情しかない。彼が微笑むと、彼の小さい口は、永遠に元気ですと言いたげなVの字の形になる。眉は小さな逆様のVの字で、その字が丸みを帯びているという趣だ。目は青く、髪は豊かで白く波打っている。カツラみたいに見えるが、ちゃんと自毛である。
トゥーイーは、このホップトン・ストッダードを長年にわたって知っている。ホップトン・ストッダードは未婚で親類もいないし友人もいない。世間の連中は自分が持っている金だけが目当てだと信じている。しかし、エルスワース・トゥーイーに対しては、圧倒的なる尊敬の念を示していた。なんとなれば、トゥーイーは、ホップトン・ストッダードとは正反対の人生というものを表象していたからである。トゥーイーは、何にせよ世俗的な富には関心がない。それだけで、ホップトン・ストッダードは、トゥーイーを美徳の権化(ごんげ)と考えている。
ホップトン・ストッダードが人生でしてきたことは美徳とは縁がなかった。彼は自分の人生について内心では不安を抱えている。人生が終わりに近づいていくにつれて、この不安は増大し確固たるものとなっていく。だから彼は宗教に安息を求める。賄賂という形で安息を求める。彼は、たくさんの様々な信仰を試し、集会に参加し、巨額の献金をし、また次の信仰へと移っていく。老いるにつれて、彼の宗教探求の速度は速められていく。いまや、その宗教めぐりは恐慌状態をきたしている。
トゥーイーが宗教には無関心であることだけが、ホップトン・ストッダードが、この友人であり人生の師である人物の人となりに不満を感じる点である。しかし、慈善にしろ、自己犠牲にしろ、貧しき人々への助力にしろ、トゥーイーが教えるすべてのことは、神の法にかなっているように思える。
だから、トゥーイーの忠告に従うときはいつでも、ホップトン・ストッダードは不安を感じない。彼は、トゥーイーによって推薦された組織には、かなりの額の寄付をする。こと、精神の問題に関する限り、ホップトン・ストッダードは、トゥーイーをこの世のものとは思えない者のように遇する。幾分か天上の神を見るようなまなざしで、トゥーイーを見る。
ホップトン・ストッダードは、今まで自分がしてきた投資のごとく、ひそかに計画してきた夢を実現させようと決心した。寺院を建てることに決めたのだ。何か特定の既成の宗教団体の寺ではない。セクトにこだわらず、様々な宗派に通底する宗教そのものに対する記念館である。全ての人間に開かれた信仰そのものの大聖堂を、ストッダードは建てたい。
しかし、エルスワース・トゥーイーが、その計画に反対だと忠告したとき、ホップトン・ストッダードは、せっかくの気分を挫(くじ)かれた気がした。
トゥーイーは、知的障害を持つ子どもたちの新しい施設が入るビルが欲しかった。そのための組織も立ち上げた。後援者となる人々の委員会は名だたる人物たちで占められた。施設運営費用の寄付金も目処がついた。しかし、肝心の施設用のビルと、ビル建設の基金がない。
もし、ホップトン・ストッダードが自分の名前を冠した価値ある記念館が欲しいのならば、「ホップトン・ストッダード児童福祉センター」に彼の金を捧げることほど気高い行為はない。そう、トゥーイーは、ストッダードに強く進言した。誰にも気にかけてもらえない貧しい知能に恵まれない子どもたちのために何かすべきではないのかと。
しかし、ホップトン・ストッダードは、そういう類の施設や世俗的な組織には、熱狂的な気分をかき立てられなかった。ともかく建てるべきは、「ホップトン・ストッダード人間精神の殿堂」でなくてはならないのだ。
トゥーイーの輝かしい理路整然とした説得に対して、あれやこれら反論するような能力は、ストッダードにはない。彼は、こう言うしかない。
「駄目なんだ、トゥーイー、駄目なんだ。それじゃ駄目なんだ。とにかく駄目なんだ」と。
かくして、この件は決着がつかないまま放置されていた。ホップトン・ストッダードは自分の考えを変える気は全くない。しかし、トゥーイーが認めてくれなかったことは、彼の気分を大いに害した。だから、最終的な決定は一日延ばしに延期されていた。秋には長い旅に出るので、夏の終わりまでには決定しなくてはならなかったのだが。ルルドからエルサレムへ、そこからメッカへ、そこからベナレスへと、すべての信仰の聖なる殿堂はみな訪れる世界旅行の予定を、ホップトン・ストッダードは立てていた。
例のホテル・アクイタニアの契約が成立した記事が新聞に載ってから数日後のことだった。高級住宅地のリバーサイド・ドライヴにある、ホップトン・ストッダードの贅沢な家具がいっぱいにつまったやたら広い高級アパートメントに、ある晩トゥーイーが訪ねてきた。彼は陽気にこう言った。
「ホップトン、私が間違っていました。例の寺院を建てる件ですが、あなたのほうが正しいです」
「エルスワース!わかってくださったか!」
「あなたは正しい。これほど適切なものはありません。あなたは、ぜひ寺院を建立するべきです。人間精神の殿堂を」
ホップトン・ストッダードは息を呑み、青い目を潤ませた。自分が自分の師たるトゥーイーに美徳を教えることができたのだとしたら、自分は、きっと正義の道をはるかに進んで来たに違いないと感じたからだ。
「ホップトン、これは実に野心的な企てです。あなたがそれをなさりたいのならば、適切に事を成さねばなりません。これはいわば神に貢物(みつぎもの)をお贈りするわけですからね。ですから、できうる限り最高の手段で、それを成就しないのならば、神のご気分を損なうことになります。不敬なことになります」
「もちろん、そうなるね。確かに適切でなくてはいかんよ。最高でなくてはいかんよ。エルスワース、君は僕を助けてくれるね?君は建築や芸術のことでも何でも知っているのだから」
「私は喜んでお手伝いさせていただきますよ。あなたがお望みならば」
「お望みならば、とは!どういう意味だね、お望みならば、とは・・・君がいなければ、僕に何ができるというのだい?」
「適切にことを成就なさりたいのでしたらば、私の言うとおりにしていただけますか?」
「もちろんそうするよ」
「では、まず建築家ですが、これが非常に重要な点です」
「うん、まさしく」
「あなたは、金のために仕事をするような、ドルのサインを頭に掲げているような、裏地にサテンを使ったようなもの着ている連中などは、雇いたくないでしょう。あなたが必要としている建築家は、自分の仕事を信じている人間ですね。あなたが神を信じていらっしゃるように」
「そうだ。まさしくほんとうにそうだ」
「あなたは、私が指名する建築家を選ぶべきです」
「もちろんだ。誰のことだい?」
「ハワード・ロークです」
「は?誰だい、それは」
「彼こそが、あなたの『人間精神の殿堂』を建築する人間です」
「その人物がいいのかね?」
エルスワース・トゥーイーは振り向き、まっすぐホップトン・ストッダードの目をみつめる。
「ホップトン、私の不滅の魂にかけて申し上げますが、ハワード・ロークは現存する建築家の中で最高の人物です」
「それは、すごい!」
「しかし、ハワード・ロークに設計を引き受けさせるのは難しいです。彼は、ある一定の条件がないと仕事を引き受けません。この人物には完全な裁量権を与えなくてはなりません。あなたが望む建物と希望の建設費の額をその人物に話したら、あとはすべて彼に任せなくてはいけません。彼には、好きなように設計させ、好きなように建築させてください。でないと、あの人物は仕事をしません。その人物には、こう言ってください。ズバリと。『私は建築のことは何もわからない。君が助言も干渉も必要とせず、適切に事を成就できると信じられうる唯一の建築家だと私は感じたので君を選んだ』と。そうおっしゃってください」
「わかった。君がそのロークとやらの人物を保証するのならば、そうする」
「私は彼を保証します」
「なら結構。費用はいくらかかっても構わんよ」
「しかし、まず始めは、彼は断ってきます。自分は神を信じていないからって」
「なんと!」
「彼の言うことを真に受けてはいけません。彼は非常に宗教的な人間です。彼なりにね。彼の建築したものを見れば、それはわかります」
「ほう」
「彼は、ただ既成のどの宗教の教会にも属していないだけのことです。どこの宗派も、誰の感情も害することがないですよ、彼に設計させれば」
「確かに、それは好都合だ」
「ただし、彼が完成予想図を書き上げるのを待たないで下さい。時間がかかりますからね、あの作業は。あなたは、あなたの殿堂の完成予想図を確かめるために旅行を延期することはなさらないで下さい。ただ、彼を雇えばいいのです。契約書には署名はしないで下さい。必要ないでしょう。あなたの銀行に財政的な面だけ手配を依頼し、あとは建築家に、ハワード・ロークに任せておくことです。旅行から帰ってくるまで、彼に金を払う必要はありません。世界中の偉大な寺院や教会を回ったあと、一年かそこらして戻ったら、あなた自身の殿堂を、世界中で見てきたものよりさらに立派な殿堂を、あなたは手に入れることになるでしょう。その殿堂は、あなたの帰還をこのニューヨークで待っていることでしょう」
「それこそ、僕の望むところだ」
「しかし、世間の人々にその殿堂が適切な形で知られる方法を考えておかなければなりません。あなたの殿堂にふさわしい公開式が必要です。正しい公表の仕方を考えねば」
「もちろんだね・・・それは。公表の仕方ねえ」
「そうですよ。あらゆる偉大な出来事には必ず、時宜(じぎ)を得た公表活動がつきものです。そういうことをきちんとしておかないと、せっかくの偉業(いぎょう)も尊敬を得ることができません」
「確かにそうだねえ」
「あなたの殿堂にふさわしい公表がご希望ならば、ことは慎重に計画しなければなりません。前もってじっくりとね。あなたが必要とすることは、あなたの殿堂が秘密のヴェールを取るとき、大きなファンファーレが鳴り響くということですね。オペラの序曲のようにね、天使ガブリエルの角笛(つのぶえ)が高らかに鳴るようにね」
「実に巧みな比喩だねえ、君」
「さて、そうするために、あなたはたくさんのチンピラ記者どもに、いい加減な記事を書かせてはいけません。あなたの殿堂が人々の目に開かれる日の効果が台無しにされてしまいますからね。あなたの殿堂の完成予想図さえ公開してはいけません。秘密にしておくのです。ロークに言っておくのです。全部秘密にしておきたいのだと。彼は反対しませんよ。建設業者には建設現場の周囲に頑丈な柵をめぐらせるといいですね。誰もその建物が何であるかは知ることはないでしょう。あなたが戻ってきて、公開式をあなた自身が司(つかさど)るまではね。しかし、その日が来たら、全米の新聞という新聞に、あなたの殿堂の写真が、『ホップトン・ストッダード人間精神の殿堂』の写真が載るのです!」
「おおお!エルスワース!」
「失礼しました。つい夢中になってしまって」
「素晴らしいじゃないか!」
「そうです。しかし、その一方で、世間に関心を持たせておくのも大事です。マスコミ対策係として有能な人間を雇って、どうやりたいのか話しておくべきですね。その手のことに関しては、非常に有能な人物をご紹介しましょう。一週間おきかそこらぐあいに、新聞に神秘的なるストッダード殿堂について何がしかの記事が出るようにしておくのです。世間にあれこれ想像させておくのです。わくわくと待たせておくのです。時期が来たときには、世間はあなたの殿堂を受け入れ賛美する用意ができているというわけです」
「まさしく」
「しかしですね、何よりも、私が推薦したということは、ロークには知られないようにしておいて下さい。私がこの件に関与しているということは、誰にもおっしゃらないで下さい。誰にも、ですよ。誓って下さいますね?」
「それは構わないが、なんで、また?」
「私には、建築家をしている友人がたくさんおります。これは、大変な額の設計料が入る仕事です。私は誰の気持ちも傷つけたくはないのです」
「そうだね、確かに」
「誓っていただけますね?」
「まったく、エルスワースときたら!」
「誓って下さい。あなたの魂の救済に賭けて」
「誓うよ、それに・・・賭けて」
「結構です。さて、あなたは建築家と交渉したことはないでしょうが、ロークというのは、普通のタイプの建築家ではありません。ロークとの交渉を間違えたくはないでしょうから、あなたが彼に何を話すべきか、わたしがお教えいたしましょう」
翌日、トゥーイーは、『バナー』社のドミニクのオフィスまで歩いていった。彼は彼女の机のそばに立ち、微笑みながらこう言った。しかし、声そのものは笑っていない。
「ホップトン・ストッダードを君は覚えていますか?ほら、ここ6年間ぐらい、彼は、ずっと話していたでしょう、全ての信仰のための殿堂を建てたいとか何とか」
「ぼんやり覚えていますわ」
「彼は、その殿堂とやらを建てます」
「そうですか」
「設計は、ハワード・ロークに任せるつもりですよ、彼は」
「まさか!」
「ほんとうです」
「そんな、よりにもよって・・・ホップトンが、まさか!」
「そのホップトンが、です」
「私からロークは駄目だと話してみます」
「うまくいかないでしょうね。君は拒否されます。私が、ロークにさせるように進言したのだから」
ドミニクは黙って座っている。トゥーイーの答えを耳にしたとき、ドミニクの顔からは面白がっているような表情が消えた。トゥーイーは、さらに言う。
「私が進言したということを、ちゃんと君には知っておいてもらいたくてね。戦術的には矛盾はないのですよ。他には誰も知らないことだし、誰も知ることはないでしょうねえ。私は君を信頼していますからね。ちゃんとこのことは覚えておいて下さい」
ドミニクは、両の唇を硬くぎこちなく動かしながら、問う。
「狙いは何?」
トゥーイーは微笑んで、こう答える。
「私は、ロークを有名にしてみせます」
ロークは、ホップトン・ストッダードの会社に呼び出された。ストッダードの執務室で、ロークはずっと彼の話を聴かされている。
ホップトン・ストッダードの話し方はのろい。そのいい方は誠実に聞こえるが、熱がこもっていなくて印象が薄い。そうなるのも、ストッダードが、トゥーイーが教えたとおりに一字一句全部を暗誦(あんしょう)しているからだ。ストッダードの赤ん坊のような瞳は、媚びるような懇願する調子で、ロークを見つめている。
ほんとうは、ロークは立ち上がりたい。さっさとホップトン・ストッダードの部屋から出て行きたい。ロークは、こういう男には我慢ができない。しかし、この男が話す言葉は、ロークをとらえた。このストッダードという男の言うことは、この男の顔にも声にも似つかわしくないのではあるが。
「つまり、おわかりになるかな、ロークさん。それは宗教的建造物ではありますが、それ以上のものなのです。私どもは、それを『人間精神の殿堂』と呼ぶということに注目してくださらんか。私どもは、何がしか狭い信条ではなくて、すべての宗教の本質を掴みたいのです。基調においてね。ほら、音楽で掴むように。では、宗教の本質とは何か?最も高く、最も気高く、最も良きものに対する人間精神への憧れですよ。理想を創造し、征服する者としての人間の精神ですよ。宇宙という生命を与える大いなる力ですよ。英雄的な人間の精神。ロークさん、それこそ、あなたに表現していただきたいのです」
ロークは、手の甲で目をこする。どうしようもない気分である。このストッダードの懇願している内容は、自分にできないことではない。しかし、それは、この男がほんとうに望むことではありえないはずだ。この男が考えることではありえない。そういうことをこの男が口に出すということが、おぞましく思えるぐらいだ。
ロークは、ゆっくりと疲れたような声で言う。
「ストッダードさん、あなたは考え違いをなさっているのではないでしょうか。僕は、あなたが望むような人間ではありません。あなたのその殿堂の設計を僕が引き受けるというのは適切ではないと思います。僕は神を信じておりません」
ホップトン・ストッダードの顔に喜びと勝利の表情が浮かんだのを見て、ロークは驚く。ホップトン・ストッダードは、感謝の念で感情が高まってくる。まさに、いつも正しいエルスワース・トゥーイーだ。トゥーイーの何でもお見通しの知恵には感服するばかりだ。感謝するばかりだ。
確信も新たに、ストッダードは背を伸ばし、しっかりとした声で言う。彼の声は、老人が若者に宣言するような調子を初めて帯びる。聡明で、かつ穏やかでありながら、ちょっと恩着せがましいような調子だ。
「そのことは、どうでもいいことです。あなたは、非常に宗教的な人物ですよ、ロークさん。あなたなりに。それは、あなたが建築したものを見ればわかります」
ストッダードには、なぜロークがそんな目で自分をじっと見つめているのかわからない。身じろぎもせず、長い間、ロークはストッダードを、まじまじと見つめる。
「確かに、そうです」と、ロークはやっと答える。ほとんどささやくような声だ。
ロークは思った。僕は僕自身について、僕の設計した建築物について、このストッダードという人物から教えてもらった。この人物は、僕が意識する前に、そのことを見抜き認識していた。十分に僕を理解していると暗に示すような傲慢なほどの確信を持って、この人物は、それを語った。
こう思うと、この人物ストッダードに対する疑惑は、ロークの心から払拭(ふっしょく)された。ロークは自分に言い聞かせる。どうも、まだ僕は人を見る目がないようだな。人の印象なんて、あてにならないものなのかもしれない。ホップトン・ストッダードは、ともかく旅行に出かけてしまう。このような素晴らしい仕事を任されたのならば、もう後のことはどうでもいいでないか。こうなれば、人が何を言おうが、どうでもいいことだ。ホップトン・ストッダードでさえ、何を言おうが、もうどうでもいいことだ。
ストッダードは、今、このようなことをしゃべっている。
「私はその存在を神と呼びたいのです。しかし、あなたは他の呼び方を選べばよろしい。ともかく私が欲しいのは、その殿堂に必要なのは、あなたの精神です。ロークさん、あなたの精神なのです。私に、あなたの精神の最上のものを下さい。あなたは、あなたの成すべきことをなさってください。私が私の成すべきことをするように。私が伝えたい意味については気にかける必要はありません。あなたの精神を建築物の形にして下さい。そうすれば、それは意味を持つでしょう。あなたが意識しようとしまいと」
そういうわけで、ロークは、「ホップトン・ストッタード人間精神の殿堂」を設計し建てることに同意した。
(第2部35 超訳おわり)
(訳者コメント)
この「ポップトン・ストッダード人間精神の殿堂」をロークに設計させるというのは、言うまでもなくトゥーイーの仕掛けた罠である。
トゥーイーは、ストッダードに最初は恵まれない子どもの福祉施設を建てさせたかったの。しかし、ストッダードは宗教的施設を作りたい。
ストッダードは、金儲け以外のことをしてこなかった人生の罪滅ぼしで、宗教的施設を作りたいのだ。神に媚を売っておきたいのだ。
トゥーイーは社会主義に傾倒したぐらいなので、ほんとうは無神論者である。だから、最初はストッダードの考えに反対した。
しかし、急にストッダードの願いを実現させるべく動き出す。
トゥーイーは、ストッダードの意を汲むような顔をしてストッダードを騙し、ついでにロークを破滅させる、一石二鳥の案を考えついた。
ロークは、この仕事のせいで、貴重な友との出会いも得るし、幸福な時間を経験する。
が、とんでもない困難にも直面してしまった。
この事件は、この小説の中でもクライマックスとは行かないが、それに次ぐぐらいの大事件となり、ロークが被る試練を大きくする。
ドミニクやキーティングの運命も、この事件は大きく変えて行く。
ところで、おそらく、ホップトン・ストッダードのイメージする殿堂は、この画像のようなものだったのだろう。
しかし、ロークが考える「人間精神の殿堂」は、ストッダードの想像を超えていた……
これからの展開は、さらに面白くなります。
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