第1部(22)ローク解雇にキーティングは安堵する

キーティングはワシントンから戻ると、まっすぐフランコンの執務室に行った。彼は製図室に立ち寄らなかったので、ロークが解雇された件については何も知らなかった。フランコンは、大仰(おおぎょう)にキーティングに挨拶した。

「やあやあ、君が帰って来たとは素晴らしいねえ!何か飲むかい?ソーダ割りのウイスキーなんてどう?ブランディでも少しやるかね?」

「いえ、結構です。タバコだけいただけませんか」

「ここにあるよ・・・やあやあ、元気そうだね!いつもよりうんと元気そうじゃないか。調子はどうだね、このラッキー野郎めが?君に伝えなければならないことはあまりないよ。ワシントンではどうだった?すべて順調かい?」

キーティングが答える前に、フランコンが、急いでしゃべり始める。

「僕はひどいめにあったよ。君、リリ・ランダウをおぼえているかい?僕は彼女とは懇意になったつもりだったんだがねえ。なのに先日リリに会ったとき、僕はえらく冷たく扱われてねえ。誰が彼女をものにしたかわかるかね、君?聞いたら驚くよ。ゲイル・ワイナンドなんだ!ほんとに!あの女ときたら、もう舞い上がっていてねえ。ワイナンドのとこの新聞を広げれば、彼女の顔だの脚だのの写真がいっぱいだよ。そりゃ、彼女にとっちゃいい宣伝になるよ。ワイナンド相手では僕に何ができる?ワイナンドが何をしたかわかるか?リリがいつも言ってたろ?私が一番欲しいものは誰もくれないわって。その欲しいものというのは、彼女の子どもの頃の家なんだ。彼女が生まれたオーストリアの小さな村のね。ところが、ワイナンドときたら、その貧乏くさい村ごとまるまる買って、全部をアメリカに輸送させたんだ。ありとあらゆるもの全部だぜ!・・・で、ハドソン河沿いに村全部を組み立てさせた。で、今じゃ、そこにその村はある。砂利石から教会から林檎の木から何から何まで全部だ!そうしてから、ワイナンドはリリにその村を突然見せて驚かしたわけだ。それが二週間前の事。リリの満面に浮かべた微笑みと感謝ときたら・・・もう・・・しかし、かわいそうになあ、あの女はねえ、ほんとのところは、ミンクのコートの方がうんと好きだからねえ。しょぼい村なんぞ欲しくはなかったんだ。ワイナンドも、そんなこと百も承知さ。リリと別れたら、ワイナンドは、あの村をどうするのかなあ。そこは知りたいところだねえ。いやあ、あの女とはすぐ手を切るよ。どんな女もワイナンドとは長続きしたことないからな。そうしたら、僕にもまたチャンスが来るかな。そう思う?」

「もちろんですよ。もちろん、また機会がありますよ。事務所に変わりはないですか?」

「ああ、順調だよ。いつもと同じさ。ルシアスは風邪をひいて、僕の一番いいバス・アルマニャックを全部飲んじまった。彼の心臓には悪いんだがねえ、いっぺんに百ドルが消えたよ・・・ああ、ところで、君のあの友だちだがね、名前は何だったかね・・・ロークか、彼をクビにしたよ」

「えー?なぜですか?」

キーティングは驚き、少し間をおいて訊ねる。

「横柄なろくでもない奴だ!あんなの、どこで拾ってきたんだ、君は?」

「何が起きたんですか?」

「ロークには良くしたと思うがねえ、僕は。彼にとっては異例の抜擢(ばってき)をしてやったのに。ファレルがキャメロンみたいなビルを設計しろって言うからさあ、僕は、しかたなくロークにファレル・ビルの図面を描くよう命じた・・・ところが、君の友人ときたら、自分に全部任せてくれと言い張るんだ。キャメロンのように設計させてくれと言うんだ。冗談じゃないよ。僕は彼に門戸を開いたのに・・・どうした?何を笑っている?」

「いえ別に。ただ僕にはよくわかるものですから」

「じゃあ、あいつをここに戻してくれなんて言わないね、君は!」

「もちろん言いません」

その後、キーティングは、ロークのところに行くべきだと考えていた。しかしキーティングは、それをずっと延期していた。彼は仕事面で確信を得つつあったし、もう今後は、ロークの手助けなどは無用だと判断した。

日々が過ぎて行った。彼はロークのところに行かなかった。自分がロークのことを気楽に忘れつつあることに、キーティングは安堵(あんど)を感じていた。

(第1部22 超訳おわり)

(訳者コメント)

ロークが出てこないセクションは訳していても面白くなかったです。

超訳だから、こーいうセクションはカットしようかとも思いましたが、フランコンとキーティングのクズな会話の中に、ゲイル・ワイナンドのことが出てきます。

だから、カットしませんでした。

オーストリアの村そのまんまハドソン河沿岸に移築できてしまう財力のゲイル・ワイナンドは、いずれロークにとって誰よりも大きな影響を与える人物だからです。

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